連載 Vol.22 教えてもらう楽しさを実感!素敵な大人の嗜み“いけばな入門
いけばなの精神について学んだところで、「それでは生けてみましょう!」と
池坊美佳さんの手ほどきを受けることになった石井美保さん。
初めての生け花にドキドキの様子です。
歴史とともに歩んできた
相手を想って生ける池坊のいけばな
石井さん:お話を伺って、いけばなへの興味は高まったのですが、いざとなると私にできるか不安で……。
池坊美佳さん(以下、池坊さん):みなさん初めての方も30分もあれば生けてしまわれますので、心配なさらなくて大丈夫です!
石井さん:すごい! いけばなで決断力が磨かれるというお話を前回していただきましたが、本当に短い時間で生けていくのですね。
池坊さん:慣れてくるともっと早くなりますよ(笑)。今日は池坊のいけばなの3つのスタイルのうち「自由花」を生けていただこうと思います。生けるときは、実際にプレゼントするわけではないですが、贈る人を想いながらどんな空間に飾るものなのか考えることが重要です。そのほかは定まった型もなく床の間以外でも、玄関や食卓などで楽しんでいただけるスタイルとして現代では広まっています。
石井さん:自由花という名の通り、自由に楽しめるんですね。少し安心しました! ちなみに洋式の家に住んでいても生活に取り入れられるのでしょうか?
池坊さん:もちろんです。洋の空間と調和させるポイントを押さえれば、難しくないですよ。
石井さん:そうなんですね! ぜひ知りたいです。「自由花」の他には、池坊のいけばなはどんなものがあるのですか?
池坊さん:自由花とは異なり、ルールに則って生ける「立花(りっか)」と「生花(しょうか)」というスタイルが2つあります。立花は作品の骨組みとなる花材=役枝が決まっており、7~9つの基本的な部分で構成されながらそれぞれ相対する花材が一つの作品として生けられ自然の景観美を表します。もう1つの「生花」も3つの役枝で草木の生命の永遠の変化と再生を表現。水際から美しく伸びあがっているのが特徴で、それぞれの枝・葉・花に秘められた生命感が満ちています。
石井さん:約束事のなかで、どう表現するのかが面白そうですね。
池坊さん:自由花とは違う楽しみ方がありますね。そもそも、いけばなの始まりは仏様に供える花として医療がない時代、愛する人の養生を花に祈りを込めて捧げるものでした。
石井さん:花に想いを込めるというのは、ずっと前から受け継がれてきているんですね。
池坊さん:はい。想いを込めるという点は変わらず、時代と共に祈りの花から鑑賞の花、生活の花へと変化してきています。池坊は、いけばなの根源としてその伝統を受け継いできました。
石井さん:長い歴史と共にいけばなの精神も育まれてきたのですね。初めてのいけばなに少し緊張していますが、楽しんで生けてみたいです。よろしくお願いいたします!
いけばなを初めて学ぶ石井さん。
今回は、基礎を学びながら初心者でも生けやすい「自由花」に挑戦します。
いけばなは点、面、線の3つで構成されます。
今回の花材では、点の要素は「カスミソウ」、面が「ライムポトス」、
線が「しまふとい」です。必ず全てを使う必要はなく、
高低差や左右のバランス、水際のまとまりを意識しながら生けていきます。
- ラナンキュラス
- スプレーバラ
- しまふとい
- ライムポトス
- カスミソウ
選んだ「ラナンキュラス」に迷いなくハサミを入れていきます。「しまふとい」を直角に折る勢いの良さは思わず現場がどよめくほど。
躊躇せず手際よく生ける姿に釘付けになっているうちに完成! ものの10分で生けてしまいました。
やっとの思いで最初の1本を決めて恐る恐るカット。戸惑っていたのも束の間、集中して黙々と生けていく石井さん。
石井さんも15分ほどで仕上がりました。きちんと生けられているかドキドキしながら、講評をいただきます。
久しぶりに感じた心地よい緊張感
石井さん:本当に緊張してしまいました……! まず花を切ってしまうことに罪悪感があったのですが、ずーっと向き合っていてもお花がダメになるし、焦ってしまってもいけないし(笑)。
池坊さん:でも、最初の迷いが吹っ切れたのか、主役の花を生けてからは集中して花と向き合っていらっしゃったのが印象的でしたよ。手前に大きなラナンキュラスで後ろの空間はシンプルにされたり、しまふといも右上に向かって生けておられたり、左右非対称の遊び心もあり初めてとは思えないです!
石井さん:ありがとうございます。生け花は心を表すという意味が少しわかったような気がします。自分と向き合う時間ですね。いまの私が作品に表れていると思うとドキドキしてしまいます。
池坊さん:そうですね。このお花を活かしてあげよう、これは外そう、と花と向き合うことを通して、普段は隠れてしまって気がつかない自分の気持ちにも素直になれる時間だと思いますよ。
石井さん:はい。はじめは不安でしたが、生け終わった今は達成感もあり、とても清々しい気持ちになれました!
Dear Miho Ishii
春が似合う、可憐な美しさを持つ
石井さんをイメージ
華やかなバラと、可愛らしいカスミソウで石井さんを表現しました。しまふといで高低差と奥行きを出すことで立体感が生まれてメリハリのある作品に仕上がったと思います。
Dear Mika Ikenobo
凛とした大人の女性像と
スイートな声の魅力的なギャップ
池坊さんはシャープで洗練されたイメージと心地良い柔らかい声が印象的。そこで、可愛らしい花々を主役に、一方向へスッと伸びるしまふといで対照的に生けてみました。
実は自由度が高く楽しめるいけばな。
手持ちの食器を花器に使うだけでぐっとオリジナリティのある作品にすることもできます。
今回は石井さんお気に入りの白のスープボウルに生けてみました。
- スプレーバラ(赤/ピンク)
- スネークアリウム
- カスミソウ
- ゴット
おもてなしの心で迎えたい玄関に
石井さん:玄関に飾ることをイメージしながら、2つの食器を使って1つの作品となるように生けてみました。1つより、2つ並べることで気負いせず(笑)、バランスも良い気がしますし、誰かが訪ねてきたときにも、さり気ないけれど目を引きそうだなと。
池坊さん:とてもよく計算されていて、2つを上手く1つの作品に仕上げられていますね。せっかく前後に並べているので、スネークアリウムの動きの流れを作るともっとリンク感が出ていいですよ。(さっと、スネークアリウムの向きを直してくださいました! )
石井さん:ちょっと向きを整えてもらっただけで、より2つの花器にまとまりが出ましたね。すごいです!
池坊さん:食器を花器に見立てて生けるときには、いけばなの基本の要素「線、面、点」を意識すると形になりやすいですよ。また、食器を選ぶときのポイントは、食器は口が幅広で浅くないほうが向いています。今回は小さめの食器だったので、高さを揃えて安定感を出しているのも素晴らしいです。
石井さん:ありがとうございます。オアシスも食器より少し高さを出すんですね。
池坊さん:はい。その方が根本を安定させて生けやすいですよ。オアシスは300均一ショップなどでも手軽に手に入りますし、ぜひチャレンジしてみてください。
石井さん:そうですね。花器に生けるよりも気軽に生活に取り入れやすそうです!
もっと身近にいけばなを楽しんでいきたい石井さん。
そこで、洋の空間でも素敵に飾れる方法を池坊美佳さんに教えてもらいました。
- Q.洋室でも違和感なく和の花を飾るには
どうしたらいいですか? - 自宅には和室がなくインテリアも洋風でまとめているのですが、
どうしたら素敵に和の花を取り入れられるか知りたいです!
- A.和洋折衷で無理なく取り入れて
四季を楽しんでみてください - 和室がないご自宅でも、コツさえ抑えれば素敵に飾れると思いますよ。1つめのコツは和花だけでなく、洋の花をミックスして生けること。もう1つはインテリアとして楽しめるような洋風の花器を使う方法です。日々の生活に和花を飾ると、季節の移り変わりに敏感になり心豊かに過ごすことができるはずです。
桜の中に黄色のカラーを入れてアクセントを効かせました。桜以外にも、新緑のいたやかえでも取り入れて新しい季節の訪れを感じられます。花器も陶器のものからガラス素材にすることで、涼しげでカジュアルな印象に仕上がり、洋式のリビングなどにも違和感なく溶け込みます。
- 桜
- いたやかえで
- みやこわすれ
- カラー(黄)
デザイン性の高い花器は1つ持っておくと洋式の部屋でも気軽に楽しめます。特にステンレス製のものは、和洋を上手に取り入れながら素敵にまとめやすくオススメです。和の印象が強い胡蝶蘭も、カスミソウと合わせることで洋の空間にもマッチするふんわり優しい雰囲気に。
- 胡蝶蘭(白/ピンク)
- カスミソウ
- トルコキキョウ
- オクロレウカ
年を重ねるにつれ花に興味を持つようになったものの、いけばなとなるとハードルが高い気がしていました。ですが、池坊さんとの対談を通して、いけばなで重要なのは自分と真っ直ぐに向き合うことだと教えていただきました。
実際、生けてみると自分のサロンを始めたときのような緊張感も。これからも生活に花を取り入れて豊かに過ごしていきたいと思います。
撮影/平井敬治<人物> ヘア/SATOMI(cheka.)
取材・文/高橋奈央 デザイン/瀬尾侑平