連載 Vol.30 石井さんも共感!池坊美佳さんが見つけた省く”生き方
池坊美佳さんとの対談の際にいけばなを教えていただいた石井美保さん。
いけばなと人生がとても繋がっているとことに共感を覚えて……。
今回は本編ではお伝えしきれなかった、
美佳さんからの“よりよく生きるためのアドバイス”をアンコールでお届けします。
いけばなの“省く”が腑に落ちたら
生き方までラクになった40代
石井さん:美佳さんは華道のお家元に生まれて、つねにお花が身近にあった環境でどうお花と向き合ってきたのですか?
池坊美佳さん(以下、池坊さん):そうですね。本当に私は生まれてからずっとお花に囲まれて生きてきました。でもそういう環境にいながら、毎年いくつものいけばなの作品をつくるけれど、全然、新しい1歩が踏み出せないと思い悩んだ時期もありました。
石井さん:え!? 美佳さんにもそんなことがあったんですか?
池坊さん:ありましたよ、30代後半ぐらいに。どこか立ち止まっているような作品しか生けられなかった。次女だったので、華やかで優しくて可愛い感じのものを生けるように周りから求められている気がして、ずっとそうしてきました。ですが、実際、私はどういうものが好きなの? と疑問が湧いてきて……。それから、色々なものに挑戦して、これは違うとかいいとか試行錯誤。自分自身と向き合うようになってようやく、私にはいけなばの“省く”というやり方が合うとわかりました。
石井さん:そんなに悩まれたこともあったんですね。
池坊さん:そうなんです。あの頃は作品を形にするけれど、自分が納得していないから、人にも響かないですし。池坊のいけばなは、盛ることではなく省くことを「美」としていますが、それすら怖かったんです。もがきながら、けれど最終的には“省く”ことが自分自身でストンと落ちましたね。
石井さん:すごいですね。怖いって思うことに立ち向かうのはすごく勇気がいることですし、迷って悩んで、挑戦しないと答えは出ないですよね。私もサロンを開業する時にすごく迷いました。私も最後は自分で結論を出しましたが、自分でしかないんですよね。
池坊さん:小さい頃からいけばなの世界にいたからこそ、周りの評価が気になってしまい、美しさを表現するのにどこまで省いて良いかがかわからなかったところがありました。父には、日々の努力や積み重ねで実力を上げることが、いかに重要かをずっと教わっていましたので。
石井さん:私も厳しい母に育てられて頑張っていた時期がありました。親の期待に答えたいと思っていたところもありましたし。なので、少しお気持ちがわかります。
池坊さん:でも、私が私の作品を受け入れられなかったら、評価もないのでは? と思って。シンプルに省く、これが私なんだと思えた時から、いけばなだけでなく生き方やライフスタイルまで変わってきました。人間関係もそうだし、お洋服も、人との距離感もね。省くからこそ大切なものが見えてくることもあります。昔は省くより、盛ることばかり考えがち。あれもこれも欲しいと思う時期があったからこそ、省くことができるようになったと思うので、それまでの時間も無駄だったとは思いません。
石井さん:確かに、色々なものとの関係性って、省くことで整理がつくようになる。距離感って大事ですよね。
池坊さん:いくつになっても自分次第で景色がどんどん変わっていくものです。自分の気持ちひとつで見えなかったものが見えてくる。走り続けることも大事、立ち止まることもいい。立ち止まったら失うんじゃないかと思っていた時があるけれど、そのときの自分を受け入れて身を任せる、抗わないほうがいいこともあるものですよ。
コミュニケーションは相手を尊重する
「距離感」と「言葉添え」が大切
石井さん:距離感のお話、すごく共感できました。それって家族や友達のように親しい関係性においてもすごく大切にしたいところだと思っています。
池坊さん:そうですね。男性も女性も距離感は大事ですが、特に男性の場合は、パートナーのようにどんなに親しくなっても、心ではこの人は他人なんだっていうことをいい意味で意識するようにしています。
石井さん:それわかります。関係が深まるほど、踏み込んでしまいがちですものね。
池坊さん:例えば、どんなに腹が立っても相手のご両親のことは言わないとか。親しくても距離が縮まっても、家族になったとしてもこれ以上は踏み込まないというラインを決めておくんです。相手が大切にしたいと思っているものは守っていく。私もそうして欲しいので気を付けていきたいと思っています。
石井さん:それはできるようで、なかなか努力しないとできないところですよね。
池坊さん:私は結婚して19年になりますが、夫に対しては、小さいことでも「ありがとう」とか「がんばってね」とか伝えるようにしています。誕生日にはおめでとう、結婚記念日には今までありがとうってね。自分もすれば、相手もしてくれる、望むことは自分からするっていうのが大事なんです。
石井さん:なるべく言葉にして伝えるようにしないといけないですね。なかなか疲れているとそういうことが後回しになってしまいがちだから……。
池坊さん:わかります。私は両親にも、夫にも、そして友人にもひと言添えるよう心掛けています。男性にしてもらいたいなら、女性側もそれは心がけるようにしたほうがいい。コミュニケーションがうまくいくし、お互いに気持ちが優しくなるものですよね。
石井さん:本当にそうですね。一緒にいる時間が増えて、長年のお付き合いになるとどこか甘えが出てしまいます。けれど、ほんの少しの言葉添えですごく良い関係性が保てることがあると私も思います。
池坊さん:そう、それと相手がやってくれようとしたことに対しては、まずは「ありがとう」と感謝を伝えること。夫婦でよくあることですが、例えば、夫が洗濯物をたたんでくれたけれど、自分とやり方が違うことがあったとします。そんな時もまずはお礼を。その後で「こうしてくれたほうがもっと嬉しい」と一言添えて、丁寧に伝えることを心掛けられるといいですよね。その方が相手も気持ちよく受け入れてくれますしね。
石井さん:確かにそうですね。私も感謝の気持ちに加えて、言葉を添えることを意識したいと思います。今回、いけばなから始まり、人生の生き方まで、とても楽しくて為になるお話を聞かせて頂きました。貴重な学びの時間をありがとうございました。
華道家・華道家元池坊青年部代表 池坊美佳さん
華道家。華道家元池坊青年部代表。華道家元45世池坊専永の次女。
1993年天皇陛下結婚式、宮中晩餐の儀における宮殿のいけばなの挿花に参加。
以降、国内外でいけばなの振興に尽力。その活動は「いけばな」のみならず、多様なフィールドに及ぶ。著書に『永田町にも花をいけよう』(講談社)
撮影/平井敬治<人物> ヘア/SATOMI(cheka.)
撮影協力/高橋奈央 デザイン/瀬尾侑平